本研究は、西洋思想の基底をなす思惟的範疇をそのまま自明的に受容する従来の西洋思想研究の盲従的姿勢への反省から、それら思惟的範疇の生成過程を言語的範疇との関係のもとにギリシア哲学、スコラ学という西洋古代中世思想文献の資料に即して、この方面で近年とみに充実してきた輸入データベースの活用により、西洋的思惟方法なるものを析出することを主眼とするものであった。そのため、個々の著作内容に制約されることなく、一人の思想家については無論のこと、時代ごとに支配的な思考図式を析出しながら、著作それぞれの成立位相を、より包括的な全体的図式との相関のもとに浮かび上がらせる方向をたどってきた。 今期は特にプラトンの対話篇に即して、古代哲学における言語と知識、さらに倫理的徳といった問題圏を巡る基礎的諸概念の特性に焦点を当て、広範囲な客観的データ分析を踏まえながら、現代哲学にまで関わってくる問題群の重要な一画を構造的に明らかにした。 またこれによって、後世の西洋思想史におけるギリシア哲学の基礎的概念の持久的影響力への巨視的分析視点なしに個別研究をいくら精微微細に進めようとも、それはついに近視眼的考察に終わる危険があろうこともいよいよ痛感されるに至った。今期は基礎的所概念析出に関するデータベース構築成果の公開までには準備が及ばなかったが、その最終課題実現のために不可欠な基礎作業をなすものである。
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