研究概要 |
本研究は、近年とみに充実してきた海外の古典文献データベースを活用しながら、西洋古代中世の思想原典に即して、個々の哲学者、思想家の枠を超えて汎通的な基底構造をなすと見られる西洋的思惟方法を析出することを目指した。縦横自在な検索を可能にする電子図書の開発進展著しい現代では、テキストの細部への精密な読み込みと同時に、個々の問題の背後に伏在する思想構造への巨視的アプローチも比較的容易となっており、またそうした複眼的思考なしには、専門分野という美名を装った迷路に閉じこめられる危険もなしとしないであろう。しかし千年以上もの時を隔ててなお様々な関心から読まれ続ける古典的思想遺産の場合、どんなに偉大な哲学者であろうと、その哲学者の「独創」で片づけられるような問題はもともと一つもないと言ってよい。 ここではそうした見地からの研究成果の一端として、プラトンの対話篇『メノン』のテキスト分析を通して思想の深層構造へと接近を試み,ソクラテスの念頭にあった問題の何であったかを改めて検討する。哲学と科学とを問わず、「探求」の営みを定義、知識の追求と捉えるかぎり、プラトンの想起説は探求の可能性を保証する有意味な仮説たり得ない。従来の想起説に対する評価はその視点に制約されていたが、探求において問題になるのは「知識」ではなく、「理解」であり、さらには知的活動一般がコミットメントの性格を担うとの洞察あれぱこそプラトンは大胆にも想起説を導入したのである。
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