フランスには、アメリカの共和制とは異なる、独特の共和主義的伝統が存在する。本研究では、その伝統に対してグローバリゼーションが突きつける課題を、思想という軸に地域文化研究的アプローチを加味しつつ考察した。 エスニック・コミュニティなどの「中間団体」を認めぬ姿勢、いわゆるスカーフ法に象徴される厳しい政教分離、人種概念を極力排除しあくまでも個人としての統合を目指す態度、明確かつ精緻な論理によって構築されたフランス共和制の原理は、一方で独特の問題を生み出してもいる。また、エスニーなどに立脚したアファーマティヴ・アクションなどの発動を困難にし、貧民や困窮者に対するフランス独自の是正措置は近年ようやく検討されはじめたにすぎない。本研究では、共和制をめぐる近年の主な理論を調べたが、なかでも注目したのが共和制は「内包的普遍主義」であるとするD.シュナペールの議論と、むしろ「共和主義的コミュノタリズム」の危険性を見るE.バリバールの議論であった。 両者の議論は、ネーションをめぐる包摂と排除をめぐるものであり、それはまた植民地主義という、いわば一つ前のグローバリゼーションをいかに位置づけるかという問いをめぐるものである。フランスは、欧米最大規模と言われるイスラーム人口を抱える。政教分離を認めぬイスラームが提起する問題は、近代共和制一般に対するものでもあり、植民地主義が遺したものでもある。この巨大な問題について、本研究は端緒に立っているにすぎない。 なお、本研究の期間中にイラク戦争が勃発し、経済的なグローバリゼーションと軍事的戦略との提携がいっそう明らかになった。そのなかで、アメリカの民主主義に関する考察が不可欠となり、「力の投影」言説に関する予定外の迂回を行わざるをえなかった。
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