研究概要 |
現代の技術論の特徴のひとつは「社会構成主義」(social constructivism)の興隆という点に見られる。この見方によると、技術的製品やその働き方は、技術の論理のみによって決定されるのではなく、さまざまな社会的要因によって規定され、合理性や効率性という技術固有の論理に見えるものも一義的に規定されるのではなく、社会的要因の影響を受けるものであり、一定の範囲で「解釈の柔軟性」が成立することが示される。他方で、この観点からは社会決定論が帰結するのではなく,むしろ、技術の成立は多元的に決定されることが強調され、その意味で、一種の非決定論、そして、「非本質主義」が帰結する。この観点は、技術哲学を「本質」を巡る抽象的議論から解放し、技術史や技術社会学などの経験的探究と結び付ける功績を持っている。しかしながら他方で、このような方向性は、技術に対する批判的視点を取ったり、変革の可能性を示唆したりする哲学固有の役割を不可能にするのではないかという批判もなされてきた。 この批判に対して、本研究では、「非本質主義」は必ずしも否定的、消極的意味を持つだけではなく、積極的な意義を持ちうることを次の点において示した。 技術の「非本質主義」は技術の根源的両義性、そして、両価性を示すことになる。どれほど優れた設計であれ、どれほど安全に思われ、使いやすい設計であれ、決して完壁な設計というものはありえないのであり、技術的人工物はひとつの機能の面で成功すれば、必ず他の機能の面で「失敗」の可能性を含むことになる(技術の「他者性」)。この「他者性」という観点を考慮に入れることによって、設計の原則を単に使いやすさや確実性の追求という観点から、失敗への配慮、未知への対処という観点に変換することが可能となり、また必要となることが示される。
|