本研究は、平成13年度より二年間にわたって、西洋近世哲学、とりわけ十八世紀における因果論と蓋然性の概念との関わり合いについての検討を通じて、知識論における蓋然性の概念の役割について新たな理解を得ようとするものである。 初年度である平成13年度は、蓋然性概念の成立を哲学史的にあとづけるとともに、科学史にも注目することによって、因果論と蓋然性概念の関わり合いについて明らかにするようにつとめた。その中心をなすのはヒュームの蓋然性概念の解明であった。とくに、トマス・リードやベーズ主義との関係を念頭に置いて、ヒュームの因果論の再検討を行うことができた。 第二年度である平成14年度は、前年度の成果をふまえ、蓋然性概念と現代の因果論との関連について研究を進めた。とりわけ、因果と法則との関係や因果過程の考え方に関する検討が中心となった。前者については、マイケル・トゥーリーを中心とする因果実在論を手がかりに、ファン・フラーセンの反実在論と、ナンシー・カートライトの性能実在論に焦点を当てた。後者の因果過程に関する研究については、W・C・サーモンの一連の研究を中心に考察し、保存量でもって因果過程を分析する理論へと考察を進めた。保存量の理論によれば、原因と結果のあるところ、一定の物理的な過程が存在する。それが因果過程である。それは保存量を保持する対象の世界線である。この理論では、原因と結果は因果過程によって結合されていると言ってもよい。しかし、その結合はヒュームの見出し損ねた必然的結合ではないと考えられる。原因と結果はマクロなレベルであり、因果過程はミクロなレベルである。一連の考察の結果、因果の問題は同一性と時間の問題についての考察を必要とすることが確認されたが、それらのさらなる検討は今後の課題として残された。
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