本年は当研究課題の最終年となった。過去2年間の研究に基づき、本年はその成果を放送大学印刷教材として『現象学の基礎』を執筆した。同書において、20世紀初頭のフッサールによる創設から今日にいたるまでの、現象学運動の歴史的展開を視野に入れつつ、この運動を動かしている哲学的理念を中心にしながら、現象学がどのような哲学的意義をもっているのかを分析した。本書において、まず「現象学の拡がり」として現象学運動全体の大まかな見取り図が画かれ、「現象学の理念」として西欧哲学における歴史的位置が論じられた。次章以下において、歴史的に現象学の中心的な問題を「経験・生と知」、「意味と実在」、「知と実践」、「方法論としての還元と解釈」、「主観性と超越論性」、「時間性」、「世界論」、「生活世界」、「身体性」、「他者・相互主観性」、「倫理」、「歴史性・社会性」にしぼり、ギリシア以来の西欧哲学に登場した古典的な見解とも対比させながら、これらの問題群においてもっとも代表的な現象学の主張がどのような問題意識と立場からなされたのか、またその限界がどのようなものであるのかを考察し、最後に「現象学の意義」について論じ、今後においてのその可能性が何であるかについて考えた。 また、明治時代以後の日本における現象学的な認識論的哲学の研究にも着手し、日本における認識論がどのような問題意識に支えられながら、西欧哲学とは異なるある別の観点を見いだすことができるのか、そしてその意義が何であるのかを研究した。
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