研究概要 |
本年度は、四月の京都フォーラムでの研究発表から研究活動を開始した。その要点は以下の通りである。デモクラシーは人間の自由と平等を実現するための最善の政治形態であるが、しかし、人間(共同体、国家)には能力差があるため、社会の階層的構造の生成を決して免れえない。アリストテレスは、この階層的構造を端的に容認し、一定の知的・道徳的水準以上の人間にデモクラシーを実現する可能性を認めたが、知的・道徳的霧者の立場に身をおいて考えれば、そうは行かない。ここに、現代世界における多文化共存の根本問題がある。この問題に対処する方向は、ロールズが意図したように、自由な自己実現(能力主義)を容認しつつ、勝れた者の能力は自分のためのものではなく、社会(地球)全体のためのものである、という観点によって、制御されるべきである、というものであろう。 この研究発表以後の研究は、アリストテレスの政治思想のうち主として経済,思想の解明に集中した。かれは経済活動に本来的活動と非本来的活動の別を認め、前者は人間に自足的生活を可能にするもの、と容認し、後者は自足的生活を逸脱して富の蓄積自体を自己目的化するもの、と断罪した。西欧近代の経済思想においては、この区別が放棄された結果、環境破壊をも含めて現在の世界的な経済状況の混乱が生まれた、と言えるだろう。このことを顧みれば、アリストテレスの経済,思想の本質を再検討することは、現在、非常に重要な課題である、と思われる。 次年度においては、この研究結果を論文にまとめ、さらに、残された部分としての教育,思想、また、安定した政体が崩壊してゆく原因についての分析、をまとめ、三年間にわたるアリストテレス政治思想の研究を完結に導くつもりである。
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