本年度は、本研究の最終年度にあたり、研究全体の完成を目指した。すなわち、すでに論文として成立した研究成果、「アリストテレスの奴隷論-その正当化の論理と超克の可能性」(『思想』893号)、「アリストテレスの『政治学』における市民と国制の概念」(『聖心女子大学論叢』93号)、「アリストテレス『政治学』における中間の国制」(『思想』920号)に加え、「アリストテレスの経済思想」に関して研究をまとめ、これによって、本研究の完結を目指した。その結果は、「経済と倫理-アリストテレスの経済思想」(『思想』2004年6月号掲載予定)として完成した。アリストテレスは経済活動に本来的活動と非本来的活動の別を認め、前者は人間に生を可能にする不可欠条件としてこれを容認したが、後者はこの条件を逸脱し富の蓄積自体を自己目的化するものとして、断罪した。西欧近代の経済思想においては、この区別が放棄された結果、富の無際限の自己増殖が起こり、それによる人間の倫理的頽廃と地球環境の破壊が現在人類を脅かしている。このことを顧みれば、富はあくまでも「善き生のために」という倫理的制約のもとに追求されねばならない、というアリストテレスの思想は、今、真剣に考慮されなければならないだろう。以上により、本研究は所期の目的を達成した。
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