本研究は、数学の哲学という観点からヒルベルト・プログラムを考察し、その歴史的な成立過程を明らかにするとともに、現在の数学の哲学における一つの立場としての意義を評価することを目的とした。その成果としては、次の二点を挙げることができる。第一に、ヒルベルト・プログラムは第二不完全性定理によって実行不可能なことが示されたとする公式見解に対し、この公式見解が必ずしも全面的に正しいというわけではないと見ることができるような解釈の余地がこのプログラムには残されている。それは、数学における内包性に関わる問題であり、その点においてヒルベルトの見解にはさらに探求すべき多くの課題が残されていることになり、この点を明らかにできたのは、一つの前進である。第二に、ヒルベルト・プログラムの形成においては、従来とは異なる点でのブラウワーの関与を明らかにすることができた。この点は、今後さらに文献的研究を進めなくてはならないが、少なくとも、ブラウワーの心的構成テーゼと論理的意味論に対する批判とが、ヒルベルトの有限主義および証明論的無矛盾性証明の動機付けの一部をなすことを理論的に明らかにすることができた。こうした観点から数学基礎論の歴史の改訂がどの程度まで進められるかは興味深い問題だが、以上の成果によって、そうした改訂作業の基盤は確保できたと考えられる。
|