中国哲学の根本に性概念を認め、その性概念が命とどの様に結びつき、そしてこの両者を成立させた存在概念とどの様に連関するのかを考察したもの。後述する人間観の根拠となる実践的な反省自覚の概念は普遍的原理である天との相関関係を確立させ、そして孟子に至り性説の成立に至るとされるが、本稿では孟子による性説の成立を否定し、その成立を孔子によるものだとした。『論語』の内省・自省により自己省察が深化され人間への自覚が完成し、『孟子』に至って天人相関に踏み込んだ分、自己内省化が更に進んだと論じたもの。つまり、性概念の成立根拠に人間観の成立を認め、そして人間観成立のためには反省自覚の概念の有無が基本であるとした。 次に、性と命とは孔子により区別され、孟子に至って性命観を成立させたが、それは即両者の関係を解消させるものではなく、後代まで厳然と並立していた。それは、例え孔子時代の性説を直裁的に判じがたいとしても、『論語』における運命や本性を含んだ命が性の代替えや補完的役割を果たしてきたという事実を否定することはできないからである。 最後に、性説・性概念は人間を反省的存在として把握することにより成立したものであるとし、また、性概念が人間を分析し、深く理解し、把握していたと論じた。そして、人間把握の根拠に自覚的存在を認識し、人間研究の最先端にいたことに他ならないとしたものである。
|