(1)インド大乗仏教瑜伽行学派にとっての根本聖典(経・律)は「事vastu」と称され、その集積が「摂事分」である。本年度は同学派の思想を確立した無着Asangaの代表作『顕揚聖教論』のうち「摂事品第一」・「摂淨義品第二」を中核にして、両章を受けて具体的思想内容を展開した各章のうち、主に「成瑜伽品第九」の解読研究に従事した。 (2)「瑜伽品」の解読研究を中心とした研究の成果は次の如くである。 (1)『顕揚論』では、瑜伽は因、現觀は果の関係にあり、また瑜伽と正行・正慧・方便・道理は同義とされる。 (2)「成瑜伽品」は「摂淨義品」を受けて、「信・欲・正勤・方便」の四種瑜伽を説くが、これは雑阿含経典「転法輪経」→『瑜伽論』「聲聞地」・「摂事分」を継承したものである。 (3)「成瑜伽品」では瑜伽を支えるものとして「無分別智」を強調し、この学派の独自の狭義である三性説を導入する。 (4)「成瑜伽品」は「無分別智」について「雖不取如所言相性、而取離言相性」という。『攝大乗論』などと比較しても、瑜伽行学派の無分別智の成立を考える上で、極めて重要な概念と言えよう。 (2)以上の研究成果は、「『顕揚聖教論』「現觀品第八」について」と題して平成13年度日本インド学仏教学会(於東京大学、平成13年6月)、並びに「瑜伽行派における信仰について」と題して平成13年度日本仏教学会(於身延山大学、平成13年10月)において口頭発表され、それぞれの学会誌に掲載された。 (3)学会発表とは別に、『顕揚論』「成瑜伽品第九」の解読研究を、対応する『瑜伽論』との比較研究のかたちで完成し、公表の準備を進めている。 (4)瑜伽行学派における思想展開の一資料として、おなじく無着の著作とされる、『大乗阿毘達磨集論 Abhidharmasamuccaya』・『大乗阿毘達磨雑集論 Abhidharmasamuccaya-Bhasya』「本地分」の梵文-蔵訳-漢訳の三本対照校訂テキストを作成中である。ただ元テキストの版権の問題があり、公表様式を考慮中である。
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