(1)インド大乗仏教瑜伽行学派にとっての根本聖典(経・律)は「事 vastu」と称され、その集積が「摂事分」である。本年度は同学派の思想を確立した無着Asang(375-420頃)の代表作『顕揚聖教論』のうち「摂事品第一」を中核にして、その「摂事品」を受けて具体的思想内容を展開した各章のうち、主に「摂淨義品第二」・「現觀品第八」「成瑜伽品第九」の解読研究に従事した。 (2)「摂淨義品第二」の解読研究を中心とした研究の成果は次の如くである。 (1)『顕揚論』の主構造は大略「知法」(「摂事品」)・「知義」(「摂淨義品」)からなる。前者は阿含経典、後者は『瑜伽論』などこの学派の聖典とされる諸論書である。この知法(阿含経典=摂事品)→知義(『瑜伽論』「摂事分」・「摂決択分」=摂淨義品)の形式で『顕揚論』に聖典の教義が継承された経緯を明らかにした。 (2)特に「摂淨義品」と『瑜伽論』との対応を明確にし、『顕揚論』が『瑜伽論』の教義を取捨選択しながら瑜伽行派独自の教義を確立しようとしたことや、さらにその教義を「大乗」として宣説し始めたことを明確にした。特に後者は学派としての大乗の成立に関わる重要なものである。 (3)以上の研究成果は、「『顕揚聖教論』について、知法知義の視点から」と題して平成14年度日本インド学仏教学会(於韓国 東国大学校、平成14年7月)において口頭発表された。 学会発表とは別に、『顕揚論』「現觀品第八」の解読研究を、対応する『瑜伽論』との比較研究のかたちで完成し、神子上恵生教授記念論集(永田文昌堂、印刷中)に発表した。 (4)瑜伽行学派における思想展開の一資料として、おなじく無着の著作とされる、『大乗阿毘達磨集論Abhidharmasamuccaya』・『大乗阿毘達磨雑集論Abhidharmasamuccaya-Bhasya』「本地分」の梵文-蔵訳-漢訳の三本対照校訂テキストを作成した。
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