本研究の目的は、インド仏教論理学を代表する二人の巨匠、ディグナーガとダルマキールティの認識論的論理学の体系を、存在論・認識論・論理学・言語哲学という4つの視点から総合的に対比し、両者の相違点を明らかにすることによって、紀元後5世紀末から7世紀にかけて生じた仏教論理学の歴史的な展開を解明することにある。本年度の具体的な目標として、存在論に関する研究論文をまとめることを掲げたが、ディグナーガの「独自相」の概念を明らかにするために、彼が前提としている有部や経量部のアビダルマ論書の存在論を検討した。ヴァスバンドゥの『アビダルマ・コーシャ』の「三世実有論証」「刹那滅論証」などを分析し、同書の「刹那滅論証」を原典から和訳し、解説を加えた論文を完成した。『櫻部博士記念論文集』に収録され、近日中に刊行される予定である。一方、ダルマキールティの存在論に関しては、『プラマーナ・ヴァールッティカ』第3章の冒頭部分をマノーラタナンディンの注釈と共に原典から和訳し、解説を加えた論文を完成した。『神子上先生記念論文集』に収録され、近日中に刊行される予定である。 研究成果のレビューを受けるために、8月末の1週間、インドを訪れ、仏教認識論・論理学の研究者としても名高いジャイナ教の高僧ムニ・ジャンブヴィジャヤ師を訪れ、多くの研究上の示唆を得た。また、現在インドにおいて最もインド哲学の研究が盛んであるカルカッタのジャドプル大学哲学科を訪問し、仏教論理学に関する講演を行い、アミタ・チャタジー教授をはじめとする多くの優れた研究者と学術交流を果たすことが出来たことは、本年度の最大の成果であった。
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