研究概要 |
本年度の研究目的は、ディグナーガとダルマキールティの認識論・論理学を原典に即して対比し、研究論文の形でまとめて発表することであった。 まず、ディグナーガに先行するもっとも重要な仏教論理学者であるヴァスバンドゥの主著『アビダルマコーシャ』(阿毘達磨倶舎論)をとりあげ、そこに見られる教証と理証からなる論証の特徴を「三世実有論証」「刹那滅論証」「有神論批判」など幾つかの具体例に即して明らかにした。(Journal of Indian Philosophy近刊予定)ディグナーガに関しては、彼の三支からなる論証式のなかで最も重要な役割を果たす「喩例論」の論文を完成した。(Steinkellner & Katsura, ed., The Roles of Examples in Indian Logic近刊予定) ダルマキールティの存在論に関しては、『プラマーナ・ヴァールッティカ』第一章自注のうち「アポーハ論」を扱う箇所を読む機会があり、「存在とは何か…ダルマキールティの視点」という論文にまとめた。(『龍谷大学仏教文化研究所紀要』近刊予定)「存在とは、因果的に有効なものであり、刹那的である」というダルマキールティのテーゼをクワインの著名な論文「何が存在するか」やチベット仏教学者たちのダルマキールティ解釈と対照的に論じた。 なお、研究成果のレビューを受け、研究情報を交換するために、仏教認識論・論理学の研究者である龍谷大学の神子上教授、東京学芸大学の稲見助教授、筑波大学の小野講師などを訪問し、大変有益であった。
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