本年度の研究成果の第1は、強力な反刹那滅論を展開したミーマーンサー学派の以下の文献を和訳研究したことにある。クマーリラ「シュローカヴァールティカ」とその書注釈書、パールタサラティミシュラ「シャーストラディーピカー」、ヴァーカチャスパティミシュラ「ニヤーヤカニカー」。これらはヴェーダの語と意味の恒常性をベースとする視点から刹那滅論の非連続性をストレートに攻撃する。また、ヴェーダーンタのシャンカラの刹那滅批判の部分を考察した。特に「原因としての刹那と同時に結果としての刹那が発生する」と解釈する唯識思想を批判することにおいてミーマーンサーの批判は激烈を極める。第2に、反刹那滅論の基点としての形而上学的時間論(カーラヴァーダ)の系譜として、リグヴェーダ、アタルヴァヴェ」ダの哲学的時間を経て、ブラーフマナ(特にアヒルブッダニヤ・サンヒター等)をオットー・シュラーダーの研究を指針として考察し、シュヴェータシュヴァタラ・ウパニシャッドにおけるアンチ・カーラヴァーダをトレースした。他方、ヨーガヴァーシシュタの当該部分を和訳し、マハーバーラタにおいてもカーラヴァーダをトレースした。第3に、中観派によるカーラ批判の論理をマクタガートの時間非実在論証と相対主義の論理とクロスさせて考察した。第4にこれらの操作をジュニャーナシュリーミトラ「刹那滅論証」のテキスト・クリティークと連動させている。 上記の成果を、今後総括して、「反刹那滅論」として一冊の書籍として公刊することを目的として研究を進めていきたい。そのためには、具体的にはジャイナ、サーンキャ、ヨーガの反刹那滅論の部分のテキストの解読と時間論、特に「瞬間的存在」の哲学的解明が残された課題である。残された15年度の研究費によってこれらの問題に挑戦していきたい。
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