本年度の研究成果は、これまでの2年間の成果を踏まえ、残されたジャイナ、サーンキャ、ヨーガの反刹那滅論の部分のテキストの解読とその批判形態の解明にあった。ジャイナは実在としての「普遍」そのものが「変化(パリナーマ)」できると考え、非瞬間的同一のものが変化可能であるとしてダルマキールティの批判をかわすと同時に反刹那滅論を展開する。サーンキャは同一の基体の時間的様相として「変化(パリナーマ)」をとらえる。ヨーガ学派はアビダルマの刹那滅をベースとするものの、意識の実体化をめざしていることが判明した。これらは、これまで反刹那滅論の基点としての形而上学的時間論(カーラヴァーダ)の系譜に所属する。カーラヴァーダの系譜は、ヴェーダ、ブラーフマナ、ウパニシャッド、マハーバーラタなどにすでにトレースした。さらにニヤーヤ学派のヴァーチャスパティミシュラとバーサルヴァジュニャ、特にウダヤナ、ガンゲーシャが時間実体としてのカーラをベースとして刹那滅論を批判し、ミーマーンサー学派のクマーリラとその注釈とヴェーダーンタのシャンカラはヴェーダの語と意味の恒常性をベースとする視点から刹那滅論を攻撃することをみてきたが、これらの核心的部分はバルトリハリ「カーラサムデーシャ」の翻訳研究によって明確化できた。以上の反刹那滅論はすべて「カーラ・時間」を実体化しているのである。これに対して刹那滅論の核心的論拠は、時間の実体化を解体する中観派によるカーラ批判を基軸として、サウトラーンティカのアビダルマ批判をベースとする。特にダルマキールティ、プラジュニャーカラグプタのヴァイシェーシカ学派のカーラ批判は注目に値する。これらの成果によってジュニャーナシュリーミトラ「刹那滅論証」のテキスト・クリティークと解読、思想的位置づけも明らかになり、本研究課題の目的が飛躍的に前進したことに感謝します。
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