本研究は、維新期から現在にいたる日本近現代史上の三点(明治初期、第二次大戦前後、高度成長期以後)を中心とする時系列の軸と、現代の都市と農山村、さらには島嶼部の祭の調査研究という現在時の軸からなっている。平成十三年度は、(1)対馬の民俗調査、(2)これにかかわる文献資料収集、(3)全国版図の他地域との比較を可能にする文献資料収集、の三点をおこなった。(1)ならびに(2)については、島嶼部(離島)・対馬東部の一漁村に地域を限定し、年中行事の全体像、漁業と中心とした生業全般、社会変動と過疎化、離島振興法と生活環境、教育問題、墓地問題、等々の集中調査をこころみた。主として第二次大戦以降の、法制・教育制度・流通運輸といった国家規模のシステムのなかで離島の経験してきた祭り(年中行事・先祖の祀り)の変動過程を(1)の聞き書きから、又(2)の文献資料・先行研究によってそれ以前の時代相をたどった。(3)は、明治期民俗統制(関)と戦後復興期の地域性の回復過程(竹沢)にそれぞれ焦点をあわせ、地域史資料の発掘とともに、主として神道関係の資料収集をおこなった。平成十四年度はひきつづきこれを継続し、とくに(1)の民俗調査を赤米の神事で知られる豆酘で集中的におこなった。上記の島嶼部をめぐる社会変動にともない、担い手が激減しながらもその性質上、観光化の困難な祭りの一例である。当初からの目的である九州地域内の都市・農山村部との比較はなお不十分な点があるものの、これによって以前からの博多山笠・椎葉神楽調査資料との比較検討の素地は整ったと判断している。
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