本研究の目的は、宗教的志向を有する現代人の動向と、そこで生じる宗教トラブルとの関係を実証的に解明することである。そのため本研究では、下記の3つの分野に大別される研究を行った。 (1)まず理論的研究として、当該問題を取り扱う際の方法論として「内在的理解」を批判的に吟味。あわせて日本人の宗教性である「生命主義的救済観」に関しても、提唱されて四半世紀たった現代宗教状況に照らして検証を行った。(2)ついてデータベースの利用として宗教情報リサーチセンターの記事データを利用して、現代日本のカルト状況を瞥見した。(3)さらに事例研究として、オウム真理教を中心に、宗教の周辺に位置するスピリチュアルな状況について調査を行った。 その結果、わかったことを記すと、(1)当該研究には内在的理解のようなミクロな視点が不可欠であるものの、当事者性に注目する限り、昔日の生命主義的救済観は現代において後退もしくは変容を迫られている。(2)現代宗教のトラブルの特徴はスピリチュアリティの侵害ということができ、それは、かつての新興宗教トラブルが、教義の妥当性、儀礼のいかがわしさ、人権侵害と結びつけられ語られてきたのと一線を画している。(3)さらに、スピリチュアリティを求める潮流が多くなりつつあるものの、スピリチュアルな希求を満たす体制は教育にも、医療にも、そして社会になく、そうすると、スピリチュアリティが商売にされ、利用され、侵害される危険性は今後も続く。その意味で現代は「スピリチュアリティの危機」の時代と言うことが理解できた。
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