ヤヤサン・プンガヨマン・マジャパイトは、現在、インドネシア・バリ州デンパサール市に本拠を置く信仰団体である。彼らの活動は、従来のバリ人の宗教生活に関する報告には見られなかったものである。彼らの活動を調査し、その祈りの形態に焦点を当て考察を行った。 ヤヤサン・プンガヨマン・マジャパイトの祈りの形態は、次の三点から見て特殊である。第一に、家屋内に祈りのためのスペースが設けられており、そこでの祈りが習慣化されていることである。第二に、カーストを越えて、地域を越えて人々が集まり、祈りを捧げているという点である。第三に、バリでは宗教的職能は分化しており、祈りはプダンダやプマンクなどの祭司を介して信仰の対象に届けられるものであった。しかし、ヤヤサン・プンガヨマン・マジャパイトの祈りの場には従来の宗教的職能者が介在しないという点である。 バリ人の宗教的生活は、家庭、村落、それぞれのレベルの共同体で営まれてきた。近代化に伴う人口移動によって、地方では伝統的村落共同体が解体した。人々は薄れ行く伝承を、宗教改革によって作られた「ヒンドゥー・ダルマ教」の教えに従うことによって補った。異なる伝統的価値観を持つ人々が集まる都市では、もとより拘束力と守護力を持つ村落共同体は成立しようもない。都市に住むバリ人は、生活が安定するにつれて、通過儀礼などの家単位での儀礼を盛大に行うようになった。また一方で、大掛かりな全島儀礼が頻繁に計画され、誰もが参加できるようになった。しかしながら、村落共同体儀礼は新興住宅地では行えない。自らの社会での位置を最も確認できる儀礼であるにもかかわらずである。都市における地縁共同体儀礼の不可能性がもたらした社会との連帯感の欠如は、ある種の方向感覚の喪失をもたらし、バリ人を緩やかな混乱状態に追い込んだ。ヤヤサン・プンガヨマン・マジャパイトは、慣習的儀礼の実践に忠実なオーソプラクシーでも、ヒンドゥー・ダルマ教の教義を遵守するオーソドキシーでもなく、宗教的に覚醒した人々による血縁、地縁によらない新たな共同性や関係性の構築を模索する動きから成立したものなのである。
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