ヤヤサン・プンガヨマン・マシャパイト(YASPEMA)は、現在、バリ州デンパサール市に本拠を置く信仰団体である。1960年代に小人数の私的集団としての活動を始め、1996年に公認団体として登録された。 ヤスペマ会員の信仰活動は次の3点からみて特殊である。第1に、家屋内に祈りのための場所が設けられており、そこでの祈りが習慣化されているということである。第2に、カーストを越えて、地域を越えて人々が集まり、祈りを捧げているという点である。第3に、ヤスペマの祈りの場には従来の宗教的職能者が介在しない、という点である。 バリが近年たどった歴史的変遷と照らし合わせて考える時、ヤスペマの誕生は、近代化を歩んだバリにおける必然であったことが理解できる。オランダによる植民地政策、急速な観光化、新制インドネシアに組み込まれていく過程でバリ人が行った宗教改革、そして都市化に伴う伝統的村落の解体と新しい町の誕生などが、バリ宗教のあり方に大きな変容をもたらすこととなった。都市における地縁共同体儀礼の不可能性がもたらした社会との連帯感の欠如は、ある種の方向感覚の喪失をもたらし、バリ人を緩やかな混乱状態に追い込んだ。YASPEMAは、地域やカーストを越えて結びついた宗教的に覚醒した人々による新たな共同性や関係性の構築を模索する動きから成立したものであると考えられる。
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