本研究は、1970年代から英語圏の倫理学・社会哲学の領域で活発に論議され成果が蓄積されてきた「社会正義論」の観点から、租税の根拠と再分配原理を考察し、あわせてわが国の租税制度のあるべき姿を構想することをねらいとする。租税の根拠についての説明としては、いわゆる「義務説」が有力だとされてきたが、「なぜ納税が義務として課せられるか」という社会倫理学的な根本問題にまでさかのぼって考察されることはまれであった。さらに租税の機能の一つに資産および所得の再分配があるとされるけれども、簡素・公平の原則が謳われる一方で租税を通じての再分配原理の実質まで立ち入った論議はほとんどなされてこなかった。そこで本研究は、ジョン・ロールズの『正義論』の刊行を機に巻き起こった社会正義論の成果を踏まえて、租税の根拠と租税による再分配原理の究明に取り組んだ。 今年度得られた重要な知見は、納税の義務を社会的弱者へのケアを促す「内発的義務」(最首悟)および「自然的義務」(ロールズ)に遡及させるという着想である。これについては日本哲学会の大会シンポジウム「正義と公共性」(2001年5月26日、学習院大学)での発題で提起したほか、法政大学比較経済研究所のプロジェクト「市場経済の神話とその変革」における報告(2001年6月16日、法政大学市ヶ谷キャンパス)でも言及し、隣接分野とのネットワーキングを試みた。 さらに研究実施計画に沿って購入したノートパソコンを活用して、関連情報の処理を進めるとともに、数次の出張によって基本文献を収集することができた。また研究室に蓄積した各種の資料を系統的に分類する作業を大学院生に委託し、次年度以降の研究態勢の基礎固めがほぼ完了した。
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