本研究は、1970年代から英語圏の倫理学・社会哲学の領域で活発に論議され成果が蓄積されてきた「社会正義論」の観点から、租税の根拠と再分配原理を考察し、あわせてわが国の租税制度のあるべき姿を構想することをねらいとする。租税の根拠についての説明としては、「利益説」と「義務説」という二つの有力な立場があるが、未だ決着を見ていない。さらに租税の機能の一つに資産および所得の再分配があるとされるけれども、「公平・中立・簡素」の三原則が謳われる一方で、租税を通じての再分配原理の実質まで立ち入った論議はほとんどなされてこなかった。そこで本研究は、現代の社会正義論の成果を踏まえて、租税の根拠と租税による再分配原理の究明に取り組むものである。 最終年度にあたる今年度は、社会政策学会第106回大会(2003年5月18日:一橋大学)の共通論題での報告(「卓越・正義・租税」)からスタートした。社会政策の20世紀的前提を問い直しつつ、新しい社会政策の構想を探るという意欲的なシンポジウムに社会倫理学の立場から発題したものである。発表原稿に共同討議の成果を織り込むかたちで、同学会の機関誌に寄稿した。その結びでは、「租税」をめぐる三つの問題を提起しておいた。第一に、ロールズの「自然的義務」(相互尊重・相互扶助の義務)や最首悟の「内発的義務」を手がかりにしながら、社会有機体説に回収されない「義務説」の復興という方向を模索するということ。第二に、すれ違い気味ではあっても、ロールズの正義論を財政学・租税論に最も接近させた「ロールズvsマスグレイブ諭争」(1974年)を読み直すこと。最後に、源泉徴収制度の導入(1940年)や「皇国租税理念調査会」の設置(1944年)といった新旧両面を有する総力戦体制下の税制とシャウプ勧告(1949年)を受けた戦後税制との連続性/非連続性をしっかり見極める作業。 三年間の研究を踏まえ、この三つの課題の更なる探究を軸に、租税の社会倫理学へと歩みを進めたい。
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