L本研究の目的は、日本を含め広く東アジアにおいて、儒教が、思想及びイデオロギーとしてどのように機能していたかを具体的実証的に検証し、その倫理思想史的意味を「人倫」概念を中心に理論的に解明するものである。 2.理論的研究: (1)「人倫」概念の検討。日本の近世思想ではきわめて重要な意味を持つ言葉であるが、これを再検討する。具体的には、崎門と懐徳堂の文献を中心に分析した。 (2)近代日本の国民道徳論などにおいて、「人倫」を核とする儒教理論がいかに展開するかの検討。具体的には和辻倫理学の国民道徳論を中心に分析した。 (3)日本をはじめとして東アジアにおいて、儒教が社会の発展に大きな影響を与えていることの意味を検討する。儒教といっても、中国・韓国・日本における受容形態はまったく異なる。韓国は中国に対してつねに過剰に適応しようとする。日本は中国から距離があるぶん受け止め方は異なる。かつての津田左右吉の解釈にあるように、社会制度がそもそも異なるからには、儒教の理解も異なる。日本は家族制度が中国・韓国と異なる。また科挙の制度もない。そのようなことから、儒教の社会に対する影響にも違いが出てくる。これにかんして上総道学・懐徳堂を中心に具体的に分析した。 (4)あらたに儒教が日本に本格的に入る中世思想について検討を追加した。 3.調査研究および翻刻・註釈: (1)上総道学を中心として、日本近世儒教の実態調査を行なう。千葉県の上総道学については、稲葉黙斎の著作をはじめとして主要な文献を収集し、目録の作成をほぼ終了した。引き続き各地の藩校を調査している(新潟・新発田、埼玉・行田、茨城・古河は終了)。 (2)収集した文献の中から、重要なものに関して、テキストの校正・本文作成・註釈の作業を進めている(稲葉黙斎『姫島講義』『越復伝』『先君子行実』、林潜齋『稲葉黙斎先生伝』は完了)。このことによって、近世後期の儒教の実体を明らかにしたい。 (3)同時に、日本朱子学の中で崎門がどのような位置にあるかも解明する 例えば、大阪には商人の学問として懐徳堂があったが、千葉の農民の学問と比較することが出来る。 4.お茶の水女子大学主宰の第4回国際日本学シンポジウムにおいて、都〓淳氏の朝鮮思想および儒教に関する報告、また大久保紀子氏の近世上総道学の報告があり、儒教を広く検討する機会があった。
|