1.本研究の目的は、日本を含め広く東アジアにおいて、儒教が、思想及びイデオロギーとしてどのように機能していたかを具体的実証的に検証し、その倫理思想史的意味を「人倫」概念を中心に理論的に解明するものである。 2.理論的研究:(1)「人倫」概念と和辻倫理学を再検討し、「「日本倫理思想史」に関する方放論的反省」(『倫理と超越-日本倫理思想史の根拠をめぐって』)を発表した。(2)また、東アジアの儒教の実体について、イ)権力の構造、ロ)資本主義的経済活動の受け入れ方、ハ)教育の意味、ニ)家族制度・宗族の実状というような項目で比較検討し、「アジアにおける思想の多様性と主体性-日本思想から考える」を発表した。 3.調査研究および翻刻・注釈:たとえば近世儒教のもっとも取り組みやすい古学においてすら、仁斎・徂徠の全集がないのが実情であるが、さらに実際の儒教を考える上できわめて重要な崎門についてのまとまった資料がないという問題がある。今回も実地に各地の図書館を調査し、千葉県立文書館、成東町元倡寺などで資料を収集した。そのなかから、稲葉黙斎『姫島講義』、『越復伝』、『先君子行実』、『先達遺事』、『墨水一滴』、林潜齋『稲葉黙斎先生伝』についての翻刻・註釈・解釈をした。 4.台湾の淡江大学・国際研究学院日本研究所が創所二十周年として「日本思想、価値観的時代変遷」のテーマで国際学術研討会を開催した。ここに招待されて「アジアにおける思想の多様性と主体性-日本思想から考える」という題目で講演するとともた、東アジアの儒教について広く意見を交換する機会をもてた。(2003年11月29日)
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