研究計画の二年目にあたる、平成14年度の研究課題はつぎの2点であった。(I)前年度の研究謀題を、研究の進行状況にあわせて補正したうえで、継続して行うとともに(II)関連学会・研究会などにおいて研究結果を報告し、そこで得られた批判を研究に反映させることである。具体的にはつぎのような研究活動を行った。[(I)に関して](a)「ソクラテス的探求」として、とくに『メノン』篇の「探求のアポリア」を中心として、「対話としての構造」の分析を行った。基本的には、昨年度の『メノン』篇前半部における「「よく」「正しく」という副詞による探求」の在りかたに関する研究を発展させるものであり、実在への名指しとことばのうちでの探求」という論点を見いだすことができた。(b)ソクラテス的探求という関心からわたしがこれまで行ってきた研究の確認と修正をすすめた。平成14年度は『ゴルギアス』篇を、その全体構造という点から分析しなおし、「虚構と現実をめぐることばの力」という視点を見いだした。拙論(日本哲学会および北海道大学哲学会に提出したもの)をこの「ことばの力」という視点から批判検討するだけではなく、対話篇第一部「ゴルギアスとの対話」について新しい議論を展開し始めている。(c)生命医療倫理学への批判を通じてソクラテス的探求の意義を検証した。現在、臨床哲学と臨床倫理学への吟味を基礎として「対話のアポリア」が哲学的探求にとってもつ意義を明らかにしつつある。[(II)に関して]研究成果の発表についてはつぎのとおりである。プラトンのテキストに関して(1)日本西洋古典学会(6月・広島大学)、(2)第56回PHILETHセミナー(7月・北海道大学)、(3)北海道大学哲学会(7/21・北海道大学)、(4)静岡大学哲学会シンポジウム「他者・提題」(11/3・静岡大学)。これらの研究発表で得られた知見のほか、旅費を使用して参加した研究会での批判・コメントをもとに、一層の研究の深化を図るつもりである。
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