前年度はドイツ生命研究者との相互交流や情報交換、ならびに資料収集が中心であった。今年度はドイツ生命倫理における問題の整理と考察をすすめ、各種研究会や学会でその成果を披露した。平成14年7月「広島医事法学研究会」、平成14年10月「岡山生命倫理研究会」、平成14年11月「日本生命倫理学会」、平成14年12月「福岡応用倫理研究会」などでの講演や口頭報告がそうである。目下、生命倫理の最先端の話題は、「ES細胞研究」と「クローン人間」である。この点では、日本でも、ヨーロッパでも、とりわけドイツでも事情は同じである。この流れを受けて、バイオエシックスの原点に立ち返り、「生命とは何か」「人間とは何か」が問われている。こうしたなかで「人間の尊厳」の概念がにわかに注目されるようになった。「人間の尊厳」を主題としたシンポジウムやフォーラムが日本各地で開催され、また新聞や雑誌紙上でもたびたび話題にされた。しかしこれまではどちらかといえば喧しさばかりが目立ち、該概念は暖昧に使用されることが多かった。この度の動向調査により、「人間の尊厳」が了解概念としてドイツ生命倫理の推進役となっていることが確認できた。日本の生命倫理との大きな相違点である。研究成果の一部は、「ヒト胚の取り扱いと人間の尊厳」や「医療倫理から生命倫理へ-日本における生命倫理の現在-」と題して学内紀要や報告集などで公表ずみである。またドイツ生命倫理研究の現状と動向を知る文献資料として外国人招待講演の翻訳紹介を試みた。この作業を通じて、ドイツ生命倫理の特徴、とりわけアングロサクソン生命倫理が見落としがちな宗教との関係について知見をえた。さらに、自らが監修や翻訳に携わった『ドイツ応用倫理学の現在』や『医の倫理課題』などの図書を刊行した。
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