本年度は、津田左右吉のとくに神話・上代史研究の具体的叙述に分け入るとともに、家永三郎の研究をはじめとする津田に関する従来の研究成果を縦覧することをあわせ行い、本研究のテーマを歴史的な研究史の見取りにおくことをこころみた。 本年度得た知見については、さまざまあるが、とくに津田の「国民思想」の実質にかかわる文学観、中国伝来の美意識の伝来の受け止め方の問題、たとえば「秋」を尊ぶ花鳥風月観を、日本固有ではないと否定的にみる見方などにあらわれるような、従来あまり指摘されることがなかったが、全体的主題と大きな意味があるなどの諸々の事柄を、知見にくえた。 中国文化の伝来を一つの史実とみつつ、その受け止め方を、固有の文学的感性の側からは、差異をのこしつつの受容と見る点などは、国学的な思想の源流である契沖の思想と構造的に近似しており、契沖の天竺・中国・日本との三国関係の見方は、津田の文明観とつきあわせて見る必要があることなど、新たな課題をえた。
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