1.本研究の第一年度として、本年度は基礎資料(国内における)の収集、調査と、分析枠組を明確にする理論的研究を中心に行った。資料収集、調査に関しては、計4回の出張調査を行い、未公刊の資料等を入手した。 2.「国民国家」と儒教表象という問題枠組については、特にそれを東アジア全体の中で考えることの意義を明らかにし、一般的な場面で日本近代の経験を批判的に読み解くことが必要であることを明確にした。その成果は「『国民』形象化と儒教表象」(『プロブレマティーク』)・「一九三〇年代日本における『国民』化の言説と儒教、そして中国」(『季刊日本思想史』)と題した2編の論文にまとめ公表した。前者は、19世紀東アジアの知的経験を規定したものが「国民国家」構築と、それに伴われる「国民」形象化の課題であったこと、そしてそこに、それまで東アジアに共通の「普遍」を語る「言語」であった儒教が、どのように動員され、「表象」として近代に新たに機能したかを考察したものであり、後者は、日本において「国民」像構築が新たな段階を迎え、対西洋の構図の中で内部の再構成がはかられた1930年代の思想現象を、「国民道徳」論者、西晋一郎と、「アジア主義者」橘樸の好対照な思想家、運動家の言説の分析から明らかにし、日本における内部の再構築がどのようなアジア観創造と共に行われたかを示したものである。その他にも、加地伸行編『儒教の本』にも共著者として参加し、近代天皇制と儒教の相関等を明らかにした。また、公開講座(北京日本学研究センター)、講演(日本思想史学会)等でも、上記の諸問題を、特に近代知識人の成立の観点から明らかにした。
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