1.本研究の最終年度として、本年度は昨年度に引き続き現地での資料収集、調査(シンガポール1回と台湾2回)を行うと共に、研究成果を随時公表し、また数度の国際シンポジウムで報告を行った。 2.近現代東アジアにおける「国民」化の問題が、現在東アジア諸地城でどのように展開しているか、そしてそこにおいて儒教表象がいかに動員されているかという問題は、近代国民国家の成り立ちに関わる重要事として把握される。昨年度は、近代日本における問題から照射するかたちで、研究成果を公開したが、本年度は、その問題を東アジア諸地域の具体相に即して考えるべく、調査・研究を行い、資料の蓄積を図った。資料等の分析は現在進行中だが、その一部は、ワークショップ「ナショナリズムの現在」(南山大学、2003年2月)、国際シンポジウム「東アジアの儒教と近代」(韓国・嶺南大学、2003年10月)、国際シンポジウム「儒教と東アジアの近代」(中国北京・社会科学院、2004年3月)において報告した。これらは共に東アジアの研究者との研究交流の場において、我々の近代に共通する問題構成をどこに設定するか、そしてそこからいかに東アジア思想史の可能性を考えることができるか、という課題に対する回答として、本研究の推進の中で考えてきたものである。 3.さらに本研究推進の経過から新たに出てきた課題としては、近代東アジアにおける「学知」としての「思想史学」の成立過程の比較対照的研究の必要性がまず挙げられる。東アジアにおける「近代知」の生成を、「思想史学」や近代「哲学」といった「学知」成立過程の問題として、東アジアの広い視野の下に考えるべき必要性があるだろう。
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