近現代東アジアにおいて「国民国家」がいかに創出されたか、その際に、過去の共通する伝統的学問「儒教」が否定される一方、いかに近代的性格のものとして再編されたかを、主として、知識人の言説を題材に、近代「国民」の形象化とそこにおける儒教表象の再生、動員という点から鮮明化した。その成果は、『江戸儒教と近代の「知」』、『東亜近代哲学的意義』等々の著作や論文において公表した。 期間中、国内調査のほか、台湾へ4回、シンガポールへ1回の資料収集調査を行い、「国民」創出の生々しい現場を取材し、最新の研究情報を獲得した。それらの成果は、いくつかの国際シンポジウム(北京、韓国、名古屋)で口頭報告し、東アジアの研究者間における問題の共通理解を求めた。 近現代東アジアにおける「国民国家」の成立過程を、歴史的・思想史的に分析し、我々の「ものの見方」の内にある近代性を解剖的に明らかにすることは、グローバリゼーションとナショナリズム、リージョナリズムとの間の相克に今まさに直面する我々にとって、問題突破の重要な第一歩となるだろう。19世紀以降獲得した「国民」という自己確認のあり方そのものの有効性が一方で問われつつ、それを超える方法が不在のなかで、グローバリゼーションとナショナリズムの相克が生じているからである。 また、本研究推進の過程で、近代東アジア諸地域における自己像生成に関わって、それを学問的に保証した「哲学」や「思想史学」といった「学知(学術知)」の成立過程を、史的に、対照的に考えることの必要性が生じてきた。これらは今後の課題である。
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