研究概要 |
今年度は、Roselyne REY, Naissance et developpement du vitalisme, 2000とTimo KAITARO, Diderot's Holism, 1997、Guido Cimino, Francois Duchesneau (ed.), Vitalisms from Haller to the Cell Theory, 1997などを、引き続き導きの糸としつつ、18世紀フランスにおける生命(生物)観を、主としてディドロとダランベールの『百科全書』の項目を中心に検討した。生理学関係の『百科全書』の項目の多くは、生気(活力)論を主張したモンペリエ学派の医者たち-メニュレやボルドゥ-などによって書かれており、その項目に含まれる生物観に関わる重要なカテゴリーを考察することで、生気(活力)論者が主導した、18世紀後半における生命(生物)観の転換の一端を明らかにしつつある。研究補助手段としては、主としてcd-rom化された電子版『百科全書』を用い、その検索幾能を利用しながら、organisation, organise, economie animaleなどの概念の変化、他の概念との結びつきの変化などを追っている。 今のところ、その成果は論文化されていない。来年度、2003年8月に国際18世紀学会(アメリカ・ロサンゼルス)の「科学と啓蒙」のラウンド・テーブルで「『百科全書』におけるorganisation概念」について報告(仏語)を行い、また、同年10月には情神医学史学会(日本・名古屋)でのシンポジウムで、モンペリエ学派が生命(生物)をいかに「科学化」したかについて報告する予定であり、その過程で、本課題についての研究を深めるつもりである。 なお、2003年4月に『「編集知」の世紀』を日本評論社より出版するが、この著作と本研究との関連について最後に一言しておきたい。それは、創発論的な「知」の構えを生み出す根底に、異種混淆的なものを連関づけて新たな知を編集する18世紀フランスの「編集知」があるというものである。編集とは、いってみれば、それまでの雑多な要素の寄せ集めから新たな創発的全体を再構成するものなのである。したがって、『「編集知」の世紀』は本課題の成果とはいえないが、本課題を構築する土台を措定するものである。
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