本研究の主たる目的は、石川三四郎とエドワード・カーペンターの思想的接点である人間と自然との共生思想をめぐる先駆的試みを掘り起こすことにある。 本年度は、この共生思想の基盤となる人間と自然との関係性をめぐる基本的な考え方の資料的なうらづけを行うために、2001年度夏に、エドワード・カーペンターの著作および数多くの書簡類がまとめておさめられているイギリスのシェフィールド市のシェフィールド市立図書館にあるカーペンター・コレクションにおいて、膨大なマイクロ・フィルムの資料をマイクロ・リーダーで読むことにより、カーペンターの思想形成にいたる軌跡をあとづけることができた。とくに、東洋思想の影響が明確にみられることが判明もした。また、石川三四郎が、日本から出したカーペンター宛の書簡も保管されており、石川がカーペンターの近代文明批判の論調に大きな影響をうけているごとも実証された。 人間と自然との関係は、両者の変化にともない変容してきたが、人間と自然との関係性の意味で問うとは、自然のとらえなおしと同時に、自己自身への問い直しをおこなうという両側面への視点が不可欠となる。石川とカーペンターの思想的接点の一つは、この複眼的な視点、すなわち、「外的」自然いいかえれば環境としての自然のみならず、人間の本性を内包させる「内的」自然への視点である。この両者にとっては、多様で複雑な技術偏重の社会の中で、広く足元の生活や文化の根底にある身近な自然との共生の問題は、生涯の課題となり、石川の「土民生活」思想に結実したのである。
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