本研究の主たる目的は、「調和の喪失」している近代文明社会における問題を先駆的に提起してきた石川三四郎とエドワード・カーペンターの思想的接点の一つとして、共生思想をとりあげ、両者の比較研究を行うことによって、比較文明論的検討を試みることであった。石川とカーペンターにおける共生思想では、自己の内と外における「負」の側面を見据える視点から、近代物質文明の「負」の問題が提起され、根源的な問いかけがなされている。 本研究実績では、第一に、国外調査費を用いて、イギリスのシェフィールド市立図書館の分室にあるカーペンターコレクションに収められているマイクロフイルム化されたカーペンター自身の論稿および書簡などの第一次資料を収集することにより、彼の思想形成の軌跡を跡付けることができた。また、カーペンターの出身校であるケンブリッジ大学図書館には、カーペンター研究の博士論文が収められており、近年カーペンターの再評価がなされつつあることと相俟って、現在の研究動向を探ることは、問題意識の整理と総括に貢献するものであった。 第二に、石川とカーペンターの思想的接点では、現代における環境倫理の問題をも先駆的に取り上げられており、近代文明社会において調和の回復をめざす新しい局面での生活実践の試みも行われてきたのである。エドワード・カーペンターによる「調和的社会論」は、自然との直接生産活動による生活を基盤としたネットワーク作りの実践から生まれてきたものである。こうした実践理論をふまえて、両者の思想的交流という異文化接触のケース・スタディの資料的裏づけを明らかにすることにより、本研究の成果をこれまでの研究と合わせて論稿にまとまる予定であるが、その一部を比較文化セミナーにて発表した。
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