平成13年度研究計画に基づき、次の3分野の研究を行った。 1.京都町衆・伊藤仁斎の思想から、町構造の変質期にあたる17世紀末までの、都市共同体における民衆思想を考察した。 (1)気一元論、心性論、仁義の思想を中心に道徳論を再検討し、仁斎の道徳論が徳川政権下の社会体制を安定維持させる政治思想として機能することを明らかにした。この研究の資料には、天理大学古義堂文庫所蔵の仁斎自筆稿本『語孟字義』、『孟子古義』、『論語古義』、『童子問』、『中庸発揮』を使用した。 (2)仁斎自筆の「家乗」、通称『仁斎日記』を史料にして、町中への接し方、町自治への関心度を分析し、仁斎の思想的基盤を考察した。その結果、町運営や町再建に能動的に参与する姿勢はみられず、思想的基盤は、町の論理にではなく、'遊びの論理'にあったことを明らかにした。遊びの論理は、18世紀初頭から台頭する新興商人の論理や、店借り商人の論理の対極に位置する。 2.1に並行して、『京都町触集成』を史料に、町による自治や町運営の変化と、支配権力による都市支配政策の変化とを分析し、17世紀中葉から18世紀中葉までの町の構造の変質を論じた。 3.1、2を承けて、18世紀中葉以降の都市住民の思想として、石門心学における商人の論理を取りあげ、仁斎の思想と比較論的に考察した。 現在、町の論理、商人の論理、遊びの論理という三つ論理の相関関係、都市住民の社会意識、支配権力に対する態度等の観点から、支配権力に対する民衆側からの共同性をまとめつつある。
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