平成14年度の研究計画を若干変更し、以下の2点の研究を行った。 1.民衆の日常倫理と世界像・生活意識 (1)勤勉・忠孝・辛抱・正直・なさけ等、いわゆる通俗道徳の内容、目的、実践を迫る要因を考察し、強固な家意識を基盤に、家を維持存続するため自助努力の精神、能力主義、職分観念が生まれ、主体的に日常倫理を構築していったことを明らかにした。 (2)民衆倫理を考察する観点として民衆教育を設定し、その内容は実用知と訓育が中心で、家の維持存続に有効であるが、社会批判の観点や新しい社会像の構築は望めないことを明らかにした。 (3)上記の思想的アプローチに加え、『京都町触集成』、『江戸町触集成』等を資料にして、民衆倫理の社会的背景を考察した。家の維持存続を第一義とする生活意識は、現状の社会体制の支持に向かう傾向が強く、ここに民衆と支配体制との共同性を指摘することができた。 2.儒学の日本化・近世日本における儒学の機能 (1)中国儒教(特に朱子学)が近世日本社会において機能するための問題点をあげ、儒教の本質「修己治人の学」の解体と再構築によって、儒学の日本化がなされ、それによって日本的儒学が社会で機能し得たという見解を得た(現在、著書を執筆中) (2)近世中期以降の日本儒学、および、教訓科往来物の儒学を、「修己治人の学」の解体、再構築過程の中に位置づけた。 (3)儒学の普及状況を古義学派の門人帳を資料にして、儒学の民間への普及状況を研究継続中である。
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