本年度は、前年度に引き続き「進化」概念の本質把握に努めた。従来は文化領域、とりわけ芸術の領域において「進化」とは見なされていなかったものを「進化」と見なすことは可能なのか、逆に芸術の領域における「進化」は「進化」概念そのものにどのような変容をもたらすのかを考察し、芸術へと「進化」概念を適用するための枠組みを構築した。すなわち物質世界において、古代の原子論と近代の元素論とがどのように「進化」し、今日の量子力学へと到達しえたのか、そしてそれが今日のわれわれの自然観や芸術運動とどのように関連しているのかが検討に賦されるなかで、「物質としての芸術」の進化論が明らかにされた。 その成果の一端は第53回美学会全国大会(2002.10 広島大学)における口頭発表「現代科学における物質観と芸術作品」によって公にされた。そこでは1)物質を直接、作品の素材として用いる場合。2-1)物質を想像的に用い、作品の外部から作品に物質的強度をもたらす場合。2-2)同じく想像的に用いながら作品の内部に物質的強度を含み込ませる場合。3)直接的かつ想像的に物質を用いながら作品に物質としての強度を付与する場合、と分類することによって、それぞれの芸術作品の物質としての強度を測定することが試みられた。とりわけ3)に分類されるイブ・クラインの作品の物質性を明らかにしえたことは本研究の大きな成果である。 また"An Aesthetics of Matter"と題された論文が国際美学会のイヤーブックに掲載された。そこでは私の芸術の物質性に関する見解と、北村知之氏のバシュラールの物質的想像力の理論とが呼応しあいながら論議され、芸術の新たな相貌を輪郭づけることに成功した。
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