基礎作業として、AD2世紀の天文学者にして楽理家のプトレマイオスの『ハルモニア論』(全三巻)の読解に専念した。古典研究の常として、単にテキストを訳してゆくだけでなく、関連する人物や事項について考証を重ねて究明してゆくので非常に時間と手間がかかり、難行している。只今のところ、ようやく第一巻の結論部にさしかかった処である。第一巻でプトレマイオスはピュタゴラス主義の方法論に従って、音程を数比で表す表記法を方法論的に展開し、その視座から、アリストクセノスを批判している。たとえば、アリストクセノスは4度の調和音程を二全音と半音から成る故に2.5の幅であるとしたのであるが、それに対してプトレマイオスは不正解であるとして、4:3の比を当てるのである。その結果、1オクターヴの大きさも、通常は六全音(五つの全音と二つの半音)の幅であるとされるが(現在常識となっているこの数え方の源流はアリストクセノスである)、全音に9:8の比を当てると531441:524288の大きさだけ超えてしまうとするのである。テキストの考証の結果、プトレマイオスがピュタゴラス派の数理思想に依拠してこのような精緻な計算を行っていたことが判明したのである。 現在のところは未だ全体量の三分の一にも達していないのであるが、原理的な事項の究明はあらかた押えたつもりなので、全巻の読了は来年の夏休み明けには完了する積りである。
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