ヘレニズム期(含ローマ期)の音楽理論の際立った成果として、プトレマイオスの『ハルモニア論』を採り上げて、その総合的な読解に専念した。これは前年度よりの方法論の踏襲であり、古典学としての正統的な方法論に則ったものである。プトレマイオスは2世紀の著名な数学者であり、アレキサンドリアで生まれ活躍した。数学者としての業績は、応用数学である天文学理論の構築に多大なものがある。ハルモニア論はこの天文学とも密接に結びついたものであり、天体の運行の奏える調和を音の調和に写し換えて、その調和の原理を単純な数比に認めようとするものである。本研究においては、プトレマイオスの数比の思想の理論と実演に迫ることによって、プトレマイオスのこの課題の現実的理解を果たした(『ハルモニア論』第一巻)。 かかる調和はいいものであり、その良さはそれぞれのハルモニア(音階)の有するエートスに現われている。『ハルモニア論』第二巻の主題はかかるエートスの違いをトノスの違いとして理解して、理論的に解明したものである。本研究においては、当書の第二巻を特に理論的に衝きつめて究明することによって、エートスと音階構造の対応の論理をある程度明らかなものとした。
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