(1)本年度はとりわけ「北方」的芸術という表象の成立過程を明らかにするために、16世紀から20世紀初頭にかけての「ゴシック」復興に関わる美学的理論の言説研究を行った。主として、(イ)18世紀中葉の啓蒙主義的ゴシック観における「北方」性の表象と19世紀初頭のロマン主義のゴシック観における「北方」性の表象の相違、(口)19世紀中葉におけるヴィオレ=ル=デュクとラスキンにおける「ゴシック」観の共通性と相違、(ハ)20世紀初めのヴォーリンガーのゴシック論と表現主義理論との連関について、研究を行った。 (2)上記研究(1)については、実際のゴシツク建築をめぐる実地研究が不可欠であるが、本年度は日程の都合上断念せざるを得なかった。だが、その欠を埋めるため。啓蒙主義の時代におけるゴシック論、および20世紀初頭における表現主義的ゴシック論の資料をマイクロフィッシュ等を通して収集した。 (3)さらに、フランスとドイツの間の方位的表象について検討を加えるために、ドイツロマン主義とフランスロマン主義の比較検討に着手した。本年度は、スタンダーバルの絵画論および演劇論について、研究を行った。 (4)芸術史ないし文学史の理念の成立において「方位」の表象が果たした役割を明らかにするために、18世紀中葉から19世紀初めにかけての芸術史・文学史記述の分析を行った。とりわけ、フリードリヒ・シュレーゲルの文学史の理念の内に反映している「方位」の表象について、分析を行った。 (5)日本における「東方」性のイメージの成立過程を、とりわけドイツロマン主義との関連から明らかにするために、昭和初期の日本浪漫派の機関誌『コギト』の研究に着手した。
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