本年度(2003年度)は本研究の最終年次であるため、研究の総括を行い、全11章からなる報告書を作成した。それゆえに、全体の総括は報告書に譲り、ここは、本年度行った研究の一端を発表した論文に即して示す。 第一の論文(仏語)「『芸術史』の成立--啓蒙主義からロマン主義の時代における普遍的なものと特殊なもの」において、18世紀中庸から19世紀初頭にかけての学問として「芸術史」の成立過程を明らかにした。それは、古典主義的な普遍主義に代わって、特殊なものとしての「国民」を歴史の主体として描き出す考え方の成立と結びつくことを、とりわけフォルケルの音楽史論に即して明らかにした。第二の論文(独語)「中心の概念--新しい神話とゴシック幻想の間の逆説」では、18世紀末から19世紀初頭にかけてのいわゆるゴシック・リヴァイヴァルを支えていた理論的枠組みについて論じた。美学理論においていわゆる「北方的なもの」が主題化される過程を、中世の発見の過程との連関において明らかにした。第三の論文「芸術について歴史的に語ること--ドイツ・ロマン主義をめぐって--」では、第一、第二の論文をふまえて、美学における歴史的思考の成立を、主としてシュレーゲル兄弟の「文学史」の構想に即して明らかにした。とりわけ、「予見的批評」という概念の持つ理論的射程を明確にするとともに、「文学史」の全体的構成において「ヨーロッパ」における「ドイツ」の特権性が論じられる論理の特徴を明らかにした。第四の論文「政治的汎神論の美学--ノヴァーリス『信仰と愛』をめぐって」では、ノヴァーリスの論文『信仰と愛あるいは王と王妃」(1798年)を扱った。これは、ヨーロッパにおける「ドイツ」(ないしプロイセン)の特権的意義をとりわけフランスとの対比において強調するノヴァーリスの美学的政治論の特徴を明らかにするものである。第五の論文(英文)「美的なものと学問的なもの、あるいは公教的なものと秘教的なもの」では、近代美学における「公共性」の発想が成立した過程を論じた。この論文は、「国民的なもの」を主題とする第一から第四の論文と相補的な位置を占める。
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