本研究では、金工諸家中、御家彫りと称されて室町時代以来特権的な地位を占めてきた後藤家の彫金作品について、宗家である後藤四郎兵衛家に伝来した史料と作品、分家である後藤勘兵衛家に伝来した史料などを歴史学・美術史学・社会史学・宗教史学など学際的な視点から分析し、後藤家による彫金家業をはじめとする全家業の営業システムを解明すると同時に、その社会的意義について考察した。 本研究の成果は、第一に、かつて後藤家に伝来し、現在は各機関・個人等に分かれて所蔵されている、御用日記.本帳.極帳・彫物控えなどの基本史料などの整理と分析を通じて、個々の作品の意匠と作品の依頼・製作・提供という一貫した手順のモデルを抽出し、後藤家の職人集団による組織的な作品提供のシステムを明らかにしたことである。第二の成果は、後藤一族の宗家である四郎兵衛家に特別な意図のもとに伝来した諸作品の作者を確定して、その美術的・社会的評価を試みたことである。 本研究の手法の特徴は、文献史料と現品(作品)との照合を図るところにあり、史料情報と作品情報をともにコンピュータを用いて処理し、文字情報(史料の記述)と画像情報(作品の写真)がリンクしたデータベースを構築したことである。これは将来の公開を予定している。このような研究成果の公開方法と美術史の新たな方法論とを開拓したことも、本研究の第三の成果である。 本研究報告書には、後藤四郎兵衛家に伝来した全作品のカラー写真と目録を収録したほか、後藤家の三家業(彫金、大判座、分銅座)の営業形態に関する総合的な考察を行った論考、ならびに、宗家後藤四郎兵衛家に伝来した彫金作品に関する論考、さらに、後藤四郎兵衛家・後藤勘兵衛家に伝来した史料の目録、重要史料の翻刻と参考資料を収録した。とくに史料目録には、本研究の過程で新たに発見した史料についても収録した。
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