研究概要 |
平成13年度に行った研究により,以下のような成果が得られた. 1.これまでウィリアムズの研究を除き,安易に寄進者像と解されてきた手工業者,商人,農民などの働く人々の描写が,シャルトル大聖堂の窓全体においてどのような意義を持つのか,という問題をはじめとして,従来の研究では精密に議論された来なかった制作の発意,資金提供,図像の考案など,パトロネージと関わる諸問題を,同時代のイメージやテキストを用いて考察し,これらの人々の描写がキリスト教会とは何かという教会神学的基盤をそなえており,当時の聖職者によって展開されたキリスト教国家論を反映しているという結論を得た. 2.このような議論をふまえて,とくにパンを焼いたり,売ったり,運んだりする人々の描写に関して,ステンドグラスの寄進者ではなく,またウィリアムズが仮説として提示する大聖堂へのパンの寄進行為の描写でもなく,聖餐の秘蹟との関わりから,キリストの身体を媒介として結び合い,使徒を原型とする聖職者によって導かれた信徒の集まりとしての教会を体現するイメージとして解釈できるという考察を行った. 3.西欧における視覚的イメージの発展では,1200年前後の時期がきわめて重要であることは,ハンス・ベルティング,ジャン=クロード・シュミットらの研究から最近認識されつつある.シャルトルのステンド・グラスはまさにこの時期に制作されている.こうしたイメージをめぐる思想と実践の展開を,聖ニコラウスという聖人像を罰するユダヤ教徒というポレミカルな描写がこの頃多数制作された背景として捉える考察を行った. 4.シャルトルでの現地調査を行い,細部の目視による確認と,図版撮影の欠落を補い,文献資料の収集を進めた.
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