本研究は、平成13年度から15年度までの3年間の予定で進められている。初年度にあたる本年度は、研究の基礎作業として、研究書、展覧会カタログ、美術館の所蔵品カタログ、雑誌等を参照して、ルーベンスの絵画作品、素描のうちから研究の対象となる作品を選び出し、それらをスライドに複写するとともに、スキャナーによってデジタル画像化し、研究の基礎資料となる画像データベースを作成した。 これらのルーベンスの作品群のうちから、本年度は、特に、ルーベンス晩年の女性表現の重要なモデルとなった、彼の二人目の妻エレーヌ・フールマンに関連づけられる作品を中心に研究した。そのために、エレーヌ・フールマンに言及した当時の文献資料を収集するとともに、併せて、妻あるいは愛人をモデルにして画家が制作するという伝承、伝統を探る目的で、古代ならびにルネサンスの美術文献を調査した。その結果、アペレス、ラファエッロといった、美女を描く名手と評価される画家たちに関して、このような伝承が残っていることが確認された。また、レンブラントの場合にも、伴侶の女性をモデルにした作品が多く残っている。これらの画家に関する伝承や彼らの作品との比較を通じて、ルーベンスの裸婦表現の美術史的な位置づけを探り、その特徴の解明を試みた。また、晩年のルーベンスの場合、特にティツィアーノヘの傾倒が指摘されてきたが、この事実は、女性の描写にも該当し、「肉」の表現において、ルーベンスはティツィアーノを継承し、さらに発展させたと考えられる。その背後には、古代彫刻の「理想美」に対するルーベンスの独特の距離の取り方があると推測されるが、この問題については、今後、さらに詳しく検討する。
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