本研究は3年計画で遂行されており、2年目の本年度も、昨年度に引き続き、研究の基礎作業として、研究書、展覧会カタログ、美術館の所蔵品カタログなどから、研究の対象となる作品を選び出し、画像データベースを拡充した。 さらに、本年度は、主としてルーベンスの女性表現と古代およびルネサンス美術との関連について考察を進めた。ルーベンスは1600年から1608年のイタリア滞在時、きわめて熱心に古代彫刻を研究し、所謂『理論ノート』を作成していた。そこに記されていた小論「彫刻の模倣について」において、ルーベンスは、画家がどのような仕方で古代彫刻を学習し、それをどのように絵画制作に生かすべきかについて論じている。彼が、そこで特に強調しているのは、生身の肉体の質感表現の重要性である。それゆえ、ルーベンスが残した古代彫刻の模写にもとづいて、彼の理論的考察がどのように実作に反映しているのかを検証した。また、このようなルーベンスの芸術観が、イタリアの芸術理論と如何なる関係にあるのかを明らかにするために、ヴァザーリ、ティツィアーノ、アルメニーニ、アンニバレ・カラッチらの見解と比較検討した。その結果、ルーベンスは、フィレンツェ派の理想主義よりも、ヴェネツィア派の自然主義に親近感を感じており、その意味において、アンニバレ・カラッチときわめて近い立場にあったことが明らかになった。 また、ルーベンスは、その絵画作品においても、古代彫刻やルネサンス美術の女性の人体表現を、さまざまな形で受容、活用している。彼が参照した作品と彼自身の絵画作品との比較を通じて、ルーベンスによる模倣のダイナミズムを考察した。
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