本研究は3年計画で遂行された。過去2年間、研究書、展覧会カタログ、美術館の所蔵品カタログなどから、研究の対象となるルーベンスならびに周辺の画家たちの作品を選び出し、画像データを収集してきたが、本年度は、それらのデータを整理して、今後の発展的研究に利用可能なものへとまとめ上げた。 こうした画像資料の整理・統合に加えて、今年度は、特に画家とモデルの問題に関する研究を進めた。ルーベンスが女性を描くに際して、しばしば妻のエレーヌ・フールマンをモデルにしたことはよく知られた事実である。何故にルーベンスが妻を好んでモデルにしたのか、画家と愛人の関係をめぐる古代の諸伝承、ならびに、ルネサンス以降の芸術家のアトリエにおける女性ヌード・モデルの利用可能性という2点に着目して考察を行った。 また、17世紀末にフランスのド・ピールらによって非常に高く評価されていた「自然」にもとづくルーベンスの女性像が、ヴィンケルマンら新古典主義者たちによって「理想美」から逸脱したものとして批判されるようになった経緯を明らかにし、今日のヨーロッパにおいてルーベンスの女性像がどのように評価されているのかを知る上で有効と思われる、批評文や広告など、さまざまな事例を収集し、それらの分析を試みた。 さらに、ルーベンスと並ぶ北方バロック絵画の巨匠であるレンブラントの女性表現についても、特にアンドロメダを描いた2人の作品を取り上げて、考察を進めた。その結果、2人の画家たちは、女性表現に関しては、ミケランジェロ流の理想主義的な立場よりも、むしろ、色彩に基づくティツィアーノ的な自然主義のほうに傾斜していたという事実が明らかとなった。
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