本年度は、一昨年度以来遂行している作品調査を継続的に実施するとともに、三ヶ年に亘って実施してきた本研究の報告書の発行を行った。調査は、京都市内及びその周辺のものに限定し、舞鶴市満願寺十一面観音坐像(建保6年〔1218〕、寿賢銘)・不動明王立像・毘沙門天立像、長岡京市光林寺阿弥陀如来立像(貞応3年〔1224〕頃に納めたと見られる納入品がある)、京都市下京区光薗寺阿弥陀如来立像(建保7年の年紀のある納入品がある)の調査を実した。満願寺の十面観音像は、銘文に長谷寺十一面観音の模した旨が記されるが、形姿は必ずしも類似しておらず、こうしたものまでを模刻像の概念に含めた鎌倉前期の造像事情は大変興味深く、仏像の霊験性に対する関心が高まってくる平安時代末から鎌倉前期の造仏状況を考える上で重要なものと思われる。光林寺と光薗寺の阿弥陀如来像は、共に納入品から鎌倉前期の作と判明するもので、その作風からすれば慶派仏師の作とみられる。この二像は、諸般の事情により詳細な調査報告がなされていなかったが、今回、何とか調査を実施する事ができた。前者は、残念ながら、近年の修理で様相が変わってしまったが、後者についてはかなり出来映えの優れた作品であり、再評価すべき仏像と言える。報告書の概要は、総頁数約140頁で、「鎌倉前期彫刻史における京都大学文学部-研究の概要」と論文「後白河・後鳥羽院政期の古仏の使用をめぐって」を収めるほか、研究協力者皿井舞の論文「愛知県稲沢市無量光院阿弥陀三尊考」を合わせ掲載した。さらに、資料としては、緒方知美、皿井舞に協力を仰ぎ、後白河・後鳥羽院政期の「関連年表」、「参考史料」を作成し、これを掲載した。
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