本研究はかつて我が国古代〜中世期の人々が心中に思い描いた「死のイメージ」--いかに他者の死を哀しみ、また、自己の死を畏れつつも受け入れたのか?--歴史的変遷を美術史学の立場から考察しようと企てるものである。本研究は次の三つの柱により構築される。(A)物語のなかの「死のイメージ」(六道絵など仏教説話画に描かれたイメージ解釈)、(B)儀礼のなかの「死のイメージ」(臨終行儀など仏教儀礼における絵画・彫刻など視覚イメージの機能分析)、(C)社会のなかの「死のイメージ」(肖像画など資格媒体による個人の顕彰等の社会構造分析)。以上、三つの柱の統合の上に、共同幻想とも呼ぶべき仮想的なイメージの問題が社会構成員一人ひとりの現実的な「死」の問題と深く関わることが明らかにされる。 上記のテーマの結節点に位置すると目される作品として、本年度はとくに家原寺蔵行基菩薩行状絵伝(重要文化財)について深く考察をなした。すなわち、まず2003年夏に奈良国立博物館に於いて当該作品の実地調査、同年12月には比較対象作品として西大寺所蔵行基菩薩行状絵巻(未指定作品)を実地調査、さらに2004年冬には堺市教育委員会文化財保護課にて聞き取り調査を行った。併せて唐招提寺所蔵行基菩薩坐像(重要文化財)、東大寺蔵東大寺縁起絵などさらになる比較作品についてデータを収集し、『行基菩薩行状絵詞』を精読することにより、当該作品についてかつてなされたであろう絵説き法会の場について考察をした。こうした調査および考察の結果は次年度中に口頭発表もしくは活字論文として発表の予定である。 ほかに美術史学会東支部主催シンポジウム「仏教と女性」にパネラーとして参加した。ジェンダーの視点から新たに「死のイメージ」をめぐって考察する機会を得ることができた。
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