本研究は、かつてわが国古代〜中世期の人々が心中に思い描かれた「死のイメージ」--以下に他者の哀れみ悼み、また、自己の死を恐れつつも受け入れたのか?--歴史的変遷を美術史学の立場から考察しようと企てるものである。本研究は次の三つの柱により構築される。(A)物語のなかの「死のイメージ」(六道絵など仏教説話画に描かれたイメージ解釈)、(B)儀礼のなかの「死のイメージ」(臨終行儀など仏教儀礼における絵画・彫刻など視覚イメージの機能分析)、(C)社会のなかの「死のイメージ」(肖像画など視覚媒体による故人の顕彰の社会構造分析)。以上、三つの柱の統合の上に、共同幻想とも呼ぶべき仮想的はイメージの問題が社会構成員一人ひとりの現実的な「死」の問題と深く関わることが明らかにされる。 上記のテーマのうち、本年度は特に(B)及び(C)に関する研究が大きく進展した。すなわち、京都・西寿寺所蔵の阿弥陀六地蔵十羅刹女像を中心に捉えて、阿弥陀信仰・地蔵信仰・十羅刹女信仰の結節点としての死の儀礼と美術について深く考察した。このテーマに関しては、今年度、大和文華館において「普賢菩薩」展と銘打たれた展覧会が開催され、その際に関係する試作品を観覧するとともに、担当学芸員と話し合う機会を持つことで、知見を含めた。それを踏まえた上で、1月には京都国立博物館にて当該作品の調査を行った。こうした考察および調査の結果は来年度中に口頭発表もしくは活字論文として発表の予定である。 ほかに論文として「ジェンダー論-地獄に堕ちた女たちー」を執筆。本稿は『講座日本美術史』(2005年夏刊行予定)に掲載される。また新聞記事として上記「普賢菩薩」展(大和文華館開催)と「十二天画像と山水屏風」展(京都国立博物館開催)に関する展覧会評を発表した(日本経済新聞)が、そのなかで本科研の成果について一部言及を行った。
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