本研究は、かつてわが国古代〜中世期の人びとが心中に思い描いた「死のイメージ」--いかに他者の死を哀しみ悼み、また、自己の死を怖れつつも受け入れたのか?--の歴史的変遷を美術史学の立揚から考察しようと企てるものである。本研究は次の三つの柱により構築される。 (A)物語のなかの「死のイメージ」(仏教説話画に描かれたイメージ解釈)、 (B)儀礼のなかの「死のイメージ」(仏教儀礼における絵画・彫刻など視覚イメージの機能分析)、 (C)社会のなかの「死のイメージ」(肖像画など視覚媒体による故人の顕彰の社会構造分析)。 このうち(A)に関しては、主として聖衆来迎寺本六道絵について、その調査・研究を行った。また(B)に関しては、主として臨終行儀について、儀礼の場にまつられた仏像・仏画の機能について考察を行った。さらに(C)に関しては、主として足利将軍像など権力者の肖像画について、その調査・研究を行った。 以上、三つの柱の統合の上に、共同幻想とも呼ぶべき仮想的なイメージの問題が社会構成員一人ひとりの現実的な「死」の問題と深く関わることが明らかにされた。
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