鳥類(ハト)における視覚刺激特性の階層的結合について、以下のような観点からアプローチした。本年度は、前年度までのカテゴリー特性の統合、記憶過程における運動-形および運動-色特性の結合、画像認知における階層的特性に加えて、次の2つの研究をおこなった。 1.複数刺激の運動の同異弁別 刺激呈示領域を4×4の16個のセルに分割し、そのうち特定の8個のセルに同一のアイコンを布置した。各アイコンは、それぞれのセル内で運動したが、すべてのアイコンが同一方向に運動するSAME刺激と、すべてのアイコンが異なった方向に運動するDIFFERENT刺激の弁別訓練を行った。訓練完成の後、同様のアイコンが新しい布置でSAMEまたはDIFFERENT運動する新奇刺激を導入したところ、DIFFERENT試行では高い正答率が維持されたが、SAME試行では弁別が崩壊した。新しい布置での訓練が完成した後、さらに新しい布置を順次加えて訓練したところ、新しい布置の刺激への完全な転移が生じるようになった。この後、毎試行ごとに刺激布置がランダムに変化するランダム条件で訓練を行ったところ、ハトはアイコンの布置にかかわらないSAME/DIFFERENT弁別を獲得した。ランダム条件における訓練が完成した後、アイコン数を2から12に変化してテストを行った。その結果、訓練に使用しなかった12個のアイコン刺激で最も弁別が高く、アイコン数が減少するほどSAME刺激でもDIFFERENT刺激でも正答率が減少した。これらの結果から、「共通運命」のゲシタルト法則に従うSAME刺激の全体的パターンのみならず、個々のアイコン間の相対的な運動も手がかりとして用いられることが明らかになった。なお、本研究はIowa大学Edward A.Wasserman教授の協力を得て行われた。 2.視点に不変な認知(View-point Invariance)と運動情報 人の正面顔を弁別する訓練の後、さまざまな視点から撮影した同様の顔画像への転移を測定したところ、ハトにおいても視点に不変な認知(View-point Invariance)がある程度は成立することが示された。しかし、実際に奥行き運動する画像をさらに加えて弁別訓練したところ、静止画のView-point invarianceは必ずしも促進されなかった。一方、最初から運動刺激のみを用いて弁別訓練を学習したハトでは、運動する範囲内にある静止画には完全な転移が見られたが、運動範囲外にある静止画の弁別は低下した。これらの結果から、ハトは2次元的に呈示される画像を3次元的に統合して認知してはいないことが示唆された。3次元的な物体認識の成立というよりはむしろ2次元的な刺激特性に基づいたカテゴリー化によって、視点方向に依存しない弁別がかなりの精度で実現可能なことがハトにおいても示された。
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